施術しても楽になった感じがしないのは?

脳と頭蓋骨

あちらこちらで書いていることなのですけれど私はは最初、骨盤調整から臨床を始めました。「自然良能会」会長五味雅吉先生の高弟だったM先生に骨格調整やら理論やらを教わりました。五味先生はたくさん書籍を出版しておられて、そちらの方で学ぶことも多かったです。私が子供の学習問題に力を入れているのはもともとが受験産業にいたことが理由ですけれど、骨盤にバンドを巻いて体操をすることで子供の視力やら学力がアップする、という話を先生の著書で学んだときは大袈裟でなく衝撃を受けました。


著書の中で五味先生は、自律神経の失調について繰り返し書いておられます。「全身骨格矯正を受けても一向に身体の軽さを感ぜず、さして眠気を催さぬ人」が五味先生の言われる自律神経失調です。疾病としての自律神経失調症とはニュアンスが異なります。骨盤調整法に限らず手技療法一般に反応してくれない患者さんというのは一定数存在するのですけれど、そういう方を五味先生は「自律神経が失調している」と説かれたのです。


今にして思えばそれはポリヴェーガル理論でいう背側迷走神経優位のことではないでしょうか。手技療法は基本的に緊張した心身を緩める、つまり副交感神経を優位にすることで症状を改善させます。ところが背側迷走神経は副交感神経に属するから、一般的な手技療法に反応しにくいことになります。

「自律神経が失調」している人を鑑別するときに、五味先生は「手三里」の経穴を使われました。肘近くにある手三里を押圧すると、普通手まで響きます。ところが自律神経が失調していると押圧したところだけが痛くて響きを感じません。


そういう患者さんにも五味先生はひたすら骨盤から全身の骨格を調整することを繰り返されました。それで患者さんを納得させるだけの説得力が五味先生の言葉にはあったのでしょう。そうしているうちに「反動」と呼ばれる痛みの増悪や酷い倦怠感が出てくるのだけれどそれを乗り越えると自律神経の失調が回復して症状が治る、というのが一連の流れです。はじめのうち私はこの「反動」を漢方の瞑眩と同じものだと考えていました。いわゆる好転反応ですね。


でもポリヴェーガル理論を臨床の現場で使うようになってから「反動」のとらえ方がちょっと変わってきました。ポリヴェーガル理論ではピラミッドの一番下層に背側迷走神経、その上に交感神経、いちばん上部に腹側迷走神経が位置するモデルが提唱されています。自律神経が失調している=背側迷走神経系が優位の状態のクライアントが心身のリラックスした状態であるところの腹側迷走神経優位にたどり着くまでには一時的にせよ交感神経優位の状態になるはずです。シャットダウンの状態から抜け出せば痛みの感じ方は強くなるでしょうし、活動量が増えれば疲労感を感じることも増えるでしょう。「反動」とはまさにその状態ではないでしょうか。

私のところではあらかじめ交感神経と背側迷走神経、どちらが優位な状態なのかを鑑別しておいてそれぞれのケースで手技を使いわけますから強烈な反動が出ることはありません。


ちなみにポリヴェーガル理論がポージェス博士によって提唱されたのが1994年、五味先生が骨盤調整法を提唱されたのが1965年頃。先達の深い洞察力に今更ながら感嘆させられます。

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