「誘いの鍵」は急性腰痛だった

クラニオセイクラルを習ったのは1990年代の終わりかけくらいでした。当時大阪にあったオステオパシーのスクールで教わったのが初めです。私はそもそもクラニオを習いたくてそのスクールに入ったわけではなく、覚えたかったのは脊椎調整とか骨盤調整とかでした。オステオパシーのテクニックには、「カウンターストレイン」「マッスルエナジー」等の魅力的な調整法が存在します。
その時にカリキュラムにあったからクラニオも習っただけで、整骨院を開業していた(今もしていますけれど)私は正直のところ手を当てておくだけのわけのわからん手技に興味が持てませんでした。あれ、何やってるんやろ?
スクールで習った骨格調整は効果が高く、それまで治療に難渋していた腰痛も首の痛みもおもしろいように治ってくれました。クラニオセイクラルを臨床で使うようになるとはその当時は夢にも思っていませんでした。
ある時朝一番で急性腰痛のクライアントがおいでになりました。洗面時に腰を傷めたといいます。テーブルに寝かせて触診してみると腰椎に圧痛がある。患側の骨盤を持ち上げて触診すると痛みは消失する。90秒そのままの肢位を取らせた後そおっと元に戻す。「それでは立ってみてください」
いつもなら「あれ、痛くありません。」と喜んでもらえるはずがこの時は様子が違いました。痛みが全然変わらないというのです。テーピングをしようが当時奮発して導入した微弱電流治療器(280万円しました)を使ってもダメ。痛みに変化が見られません。
そういう時はレッドフラッグを疑うのが手技療法家の定石です。物理的な治療に全く反応しないというのは何か別の疾病が痛みの原因である可能性も疑われる。そういうケースでは命にかかわることもありますから私は躊躇なく「これはギックリ腰ではなくほかの原因で痛みが生じている可能性があります。できるだけ早く医療機関を受診してください。」と説明した。そのクライアントは納得して帰られたので私は次の治療に取り掛かりました。
その日の夕方、朝拝見したクライアントがまたおいでになりました。医療機関での検査結果を伝えに来てくださったのだな、と思い「病院ではどうでしたか?」と伺うと、画像診断の結果は異状ありませんでした。痛み止めの注射をしてもらったけれど全然効きません。何とかしてください。
「え?」と私は思いました。おいおいおい、オレ今朝ギブアップしたやんとも心の中で叫びました。
正直困ったことになったな、と。朝効かなかった腰の治療をもう一遍してみても改善はしないでしょう。どうしたらいい?その時思いだしたのがオステオパシーのスクールで習ったわけのわからん手技、クラニオセイクラルでした。確か腰痛にも効くとかセンセ言うてたな。とりあえず試してみようか。効くかな?いや効いてちょうだいお願いします。そう思いながらクライアントの頭に軽く手を当てました。
クライアントは疑わし気に私を見たけれどすぐに寝落ちされました。一通り頭を調整して起こしてみると驚いたことに腰の痛みがきれいになくなっているではありませんか。「えー、すごい。先生何あれ、気功か何か?」クライアントは喜び驚いてくれたのですけれど何を隠そう一番驚いていたのは私自身でした。
それからは現金なものでクライアントの頭をヒマがあれば触るようになりました。そうして徐々に私は整骨院とか柔道整復とかのジャンルから外れていき、クラニオセイクラルという沼にどっぷりと沈んでいくことになったのです。


