顎関節の不調はどうやって治す?

顎関節の不調を訴える患者さんが見えたとき、どんな治療をするでしょうか。一見して顎が歪んでいる方であれば、やっぱりその歪みを矯正したいと思うのが人情です。下顎骨は咀嚼筋によってぶら下がっている状態ですから、この筋肉を緩めようと考える臨床家が多いです。

咀嚼筋をマッサージしてみたり鍼を打ってみたり、超音波を照射してみたりして咀嚼筋の緊張を緩めようとします。顎関節症の原因のひとつにストレスが挙げられます。心身がストレスを感じると筋肉は緊張します。咀嚼筋ももちろん緊張します。そうするとものを噛むときに痛みがでる、とか口を開きにくい、とかの症状が出現します。咀嚼筋に限らず筋肉は左右対称で緊張するとは限りません。それで頤が左右どちらかに偏って見えることもあります。こういうケースでは咀嚼筋の緊張を緩和する「だけ」で顎関節症は改善すると思います。

でも残念ながらそれだけではうまくいかないことも結構あります。どうしてか。

顎関節は解剖学では「側頭下顎関節」と言います。側頭骨と下顎骨との間の関節という意味です。ストレスその他で筋肉が緊張することで下顎骨が歪むことももちろんありますけれど、側頭骨が歪むことで咀嚼筋にかかるテンションが左右で不均衡になってそのせいで下顎骨が歪むこともあります。この時はいくら筋肉の緊張をとっても再び緊張は起きますし、その結果として下顎骨の歪みも再発します。結果、顎関節の不調も改善しないということになります。

何かを側頭部にぶつけた、とかいうケースを除けば、ごく柔らかい力で調整してあげれば側頭骨の歪みは解放されます。たまに幼少時のころの中耳炎の名残で側頭骨の動きが制限されていることがあります。これも手技療法で解放することが可能です。

咀嚼筋を緩め、側頭骨を調整しても顎関節症がうまく改善してくれない時は上顎骨を疑います。上顎骨は左右一対の骨です。例えば抜歯の際に左右の上顎骨の間に歪ができることもありますし、日常生活ではあんまりありませんけれどボクシングなんかで顔面にパンチを受けると頬骨を介して上顎骨が影響を受けます。こういう時にいくら下顎骨を調整してもナンセンスなのはご理解いただけるでしょうか。上顎骨に問題があるときはゴム手をはめて口の中に術者の指を入れて調整します。

頬骨の話が出たついでに(?)書いておきますと、咀嚼筋のひとつ咬筋は頬骨にくっついています。(解剖学的には起始している、と言います)もちろん顔面にパンチを受けることは日常生活ではありませんが、私たちはここ数年間、ずっとマスク生活を強いられてきました。マスクで圧迫を受ける部位が、まさに頬骨です。それかあらぬか、頬骨を調整していると寒くて震える時のように歯をカチカチ鳴らす患者さんがおられます。マスクで頬骨が圧迫されていたのを調整すると、緊張を強いられていた咀嚼筋が解放されるのだと思います。

このように顎関節症と言ってもさまざまな原因が複雑に絡み合って発生しています。ただ咀嚼筋の緊張を緩めて終わり、とはなかなかいかないようです。

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