「骨盤のゆがみ」は腰痛の原因ではなく結果

骨盤周辺の筋肉

腰痛のある方の骨盤を調整すると、一時的にせよ腰痛は楽になります。痛みは骨盤部より腰椎の近辺に出ることが多いですから、「腰痛の根本原因は骨盤のゆがみ」という説を唱える方が多いのはわかります。私自身、臨床を始めたばかりのころはそう信じていましたから。

ただ、例えば整形外科の医師は骨盤矯正には懐疑的です。それはそのはずで、骨盤は頑丈な骨のカタマリが組み合わさってできています。しかも関節を補強する靭帯も強固で、さらに太っとい筋肉に覆われている。こんな強固な構造がちょっくらちょっと歪むわけがないと考えるのも無理はないでしょう。

骨盤矯正を標榜するセラピストは、骨盤が歪み、その歪みが脊椎や頭蓋骨に及ぶ、と患者さんに説明します。ギックリ腰であるなら、重いものを持ちあげた拍子に骨盤がズレる。それに合わせて腰椎がズレる。椎間から出ている神経が圧迫されて腰が痛む。周囲の筋肉は骨格がそれ以上歪まないように緊張する、というモデルです。骨盤がズレているサインとして普通使われるのは下肢の長短差です。患者さんに付き添いがあるときは、「右脚がこれだけ短いでしょう?」「骨盤がズレているからです」ということを確認させたりもします。患者さんや付き添いは納得してくれますが、解剖学的にはちょっとしんどい説明ですね。

話は変わるのですが、当院では学習や集中力に問題のある子供さんのケアも行っています。そういう子供さんはたいてい全身の緊張が強いです。そうして骨盤を見てみると、下肢の長短差がかなり著明な形で出ています。もちろん子供さんに腰痛の症状はありません。でも、外見的には骨盤がズレている。

学習や集中力に問題のある子供さんのケアをするときは、頭蓋骨を調整します。全身を緊張させている自律神経のバランスをとるためです。実際には必要に応じて脊椎や骨盤も調整するのですが、頭蓋骨だけを調整して心身の緊張が緩んだ時点で下肢長を確認してみると、左右差はかなり改善しているのですよ。骨盤がズレて身体が緊張するのではなくて、心身の緊張の結果、骨盤が周りの筋肉に引っ張られて撓(たわ)んだ状態こそが「骨盤のズレ」の正体ではないかと考えています。

重いものを持って腰に無理な力がかかったときに、腰椎(とその中を通る脊髄)を守るために脳は筋肉を緊張させます。そうやって動きを止めて腰椎や脊髄の損傷を食い止めようとするわけです。この状態がギックリ腰です。骨盤を覆っている筋肉も緊張しますからその影響で骨盤が撓みます。撓んだ骨盤を矯正するということは、周囲の筋肉の緊張をほぐすことですから一時的にせよ腰を動かすことはできるようになります。

話がややこしくなりましたが、要するに骨盤が歪むことで周囲の筋肉が緊張して腰痛が起きるというのが従来の骨盤矯正のモデルでした。でも実際は脳が危険を察知して筋肉を緊張させ、その影響で骨盤が撓むというのが「骨盤のズレ」の正体のように思います。そうであれば骨盤を繰り返し矯正することは非常に効率の悪い治療法であるように思います。おそらく骨盤矯正に通ってもなかなか治らなかった腰痛が、頭蓋仙骨療法で短期間に治ってしまうことが多い理由でもあるでしょう。

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