手技療法(整体)で改善する症状、しない症状

希望

新聞の読者投稿を読んでいたら、癌にかかった方(投稿者の友人)がさまざまな治療法を試したが薬石効なく、といった話が載っていました。そうして驚いたことにその中に「整体」が含まれていたのです。(令和5年5月29日産経新聞)その「整体」なるものがどのようなことをするのかは知りませんが、手技療法で癌が治ることは絶対にありません。かつては藁をもすがる患者さんの気持ちに付け込んで「癌はおできです 切っても治りません」という広告を出していたカイロプラクティックの治療院が存在しました。さすがにそんなことを公言する人はもういないだろうと思ったのですけれど、まだいたか。

一般に整体やカイロプラクティック、オステオパシーなどの手技療法の適応は筋・骨格系の症状とされます。腰痛とか肩こり、四肢の痛みなんかですね。

実はカイロプラクティックは、手技療法で筋・骨格系「以外」の症状が改善した経験がもとになって始まったといいます。耳の不自由な人の頸椎を調整したら、聴力が回復した。そういう経験から発展していったと言われています。現実にカイロプラクティックを受診する方の大半は筋・骨格系の症状を主訴にする方が圧倒的ですけれども。カイロプラクティックの本場、アメリカでも事情は同じだといいます。

手技療法で筋・骨格系を調整すると副交感神経が優位になり心身がリラックスします。筋・骨格の緊張が緩んで痛みや凝りやしびれが改善します。その結果、例えば血圧が安定したり不眠が改善したり、自律神経の過緊張や脳疲労による症状も改善します。頭蓋仙骨療法が発達や学習の問題に有効なのもおんなじ作用機序です。もちろん愁訴の種類によって手技の処方はあれこれ考えますけれど、手技療法(というか物理療法一般)の効果が及ぶのは筋肉であり骨格(と、それから神経)に限られます。体表から触れることのできるのがそれら運動器に限定されるからです。

運動器を調整して様々な症状を改善させる、それが手技療法にできることのすべてです。私たちセラピストはそこに惚れて人生を手技療法に賭けた、ということですね。

言い換えれば手技療法で改善の可能性があるのは機能的な症状に限られるということです。癌のような器質的疾患はいくら手技療法を行っても改善することはありません。石を取りてパンに変えることはできません。

時々誤解されるのですが、「手術しないと治らない」とか「変形しているから治りませんよ」とか医療機関で宣告された症状を手技療法で改善させることは(ケースバイケースですけれど)可能です。これは痛みやしびれの原因が変形性関節症や椎間板ヘルニアといった器質的疾患ではなく、ストレスによる脳疲労やそれに伴う軟部組織の過緊張にあるからです。なので施術後に痛みが改善してからもう一度画像診断をしてみても、関節の変形にもヘルニアにも全く変化はありません。痛みは変形のみにて生ずるにあらず。

たとえば癌そのものを治すことはできなくても、心身をリラックスさせることで生活の質を上げることは可能でしょう。その結果、予後に良い影響がある可能性も否定しません。ただしそのことを強調してアピールする治療院を私はお勧めしません。

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