トラウマを消す技術

鎖骨下

ちょっと以前のこと、めまいの患者さんを拝見したことがあります。めまいの原因はいろいろ言われていますが、大体は頸椎上部か側頭骨に制限があります。触診してみるとどちらにも圧痛があったのでそれを調整しました。まあ言ってみればありふれた症状で、簡単に治るものだと思っていました。ところが、全然症状に変化がないのです。二回目の治療も効果なし。三回目の治療の時に、もういっぺんお話を伺ってみることにしました。

「特に何をしたわけでもないのにめまいが出てきて…。」ということでしたけれど、その前後に何か変わったことがありませんでしたか?と、もういっぺんお尋ねしてみると、「災害現場のそばを通ってちょっとショッキングな光景を見た」というお話が出てきました。ひょっとして原因はそれなのか?

心身の症状の原因が過去のトラウマにある、という考えは以前からあります。頭蓋仙骨療法の開発者、アプレジャー医師は身体の中から抜け切れていない過去のトラウマを「エネルギーシスト」と呼びました。例えばむち打ちの症状が治らないときに「衝突のエネルギーが身体からまだ抜け切れていない」ことが原因であるという考えです。

トラウマは身体的、物理的なものとは限りません。精神的なトラウマもまた、エネルギーシストを形成するとアプレジャー博士は考えました。そうして「体性感情解放法:Somat Emotional Release SER」という手技体系を考案しました。簡単なものでは患者さんの頭と背中に手を当てる、という手技もありますが患者さんの反応はそれこそまちまちでとんでもなく時間がかかることもあります。アプレジャー博士自身が著書の中で「体性感情解放法を使う患者は予約時間の最後に入れろ」ということを書いておられます。少なくとも私の治療院でこの手法を使うのは難しそうです。

もう一つ、感情解放のための手法があります。その名も「感情解放テクニック:Emotional Freedom Technique EFT」と言います。トラウマによって人体のエネルギーの流れが滞っているのを、東洋医学の「ツボ」をたたいて(タッピング)解放しようというセラピーです。私は基礎的なトレーニングも受けています。ただこちらは施術を行う際にセットアップフレーズとリマインダーを口に出して言う必要があります。「たとえ犬が怖くて仕方がないとしても、私は大丈夫」みたいな感じで。これはなかなか大変ですよ。当意即妙にそんなフレーズは出てこないし、患者さんにつらかった記憶の告白を強いるようなケースだってあるでしょう。少なくとも私にはこの手法を臨床の現場で使いこなすだけのボキャブラリーはありません。そんなわけでEFTは私の中で、「習ったけれど使っていないテクニック」としてお蔵入りになっていたのです。

どうにかして目の前の患者さんのトラウマを解放したい、でもSERもEFTもちょっと使えない。どうしたものか。そう考えながら私はEFTで使う「ツボ」を触診していました。そうすると鎖骨の下に強い圧痛がありました。この圧痛を手技で消してみたらどうなる?そんなアイディアが急に出てきました。圧痛を処置してから通常の施術をして三回目の治療は終了です。そうして四回目の治療。前回までと打って変わって元気な様子でおいでになった患者さんは、あれからすぐにめまいは楽になったこと、それから再発していないことなどを嬉々として話してくださいました。どうも鎖骨下の圧痛を処置するとうまいことトラウマが消えるようです。

ご主人がきれいなお姉さんと内緒でゴルフに行ったのを知ってから気分が塞いで仕方がない、というご婦人が二人目の症例でした。鎖骨下には圧痛がちゃんとあって、それを処置するとその場で気分が晴れてきたのが目に見えてわかりました。腹は立っているけれど、塞ぎ込んではいない、という感じなのだそうです。こちらのご主人は、数か月後にご丁寧なことにもう一回やらかしてくださって、鎖骨下の圧痛を消すことの効果を私に確信させてくださいました。

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