むち打ち損傷は交通事故だけで発生するのではない
むち打ち損傷というと交通事故によるものがまず思い浮かびます。でも実はそれだけでなくほかの受傷起機転でも、それからもっと軽微な外力でも起こりうるもののようです。おそらく患者さんご本人も医療者側もむち打ち損傷と認識していないむち打ち損傷がたくさん存在していると考えています。
例えばしりもちをついて転んで、それからずっと頭痛に悩まされてきたというケース。もちろんあっちこっちの医療機関を受診して「異常なし」の診断がついています。お話を伺っていておそらくは頸椎に問題があるな、という見当はついていました。それで頸を触診してみると、果たして第4頸椎に圧痛がありました。それをストレイン・カウンターストレインという手技で調整してみました。念のために腰も調べてみましたが特に問題なし。それで起き上がって痛みを確認していただくときれいに取れていました。喜んで合掌までしていただいたので記憶に残っています。言ってみればこれは頸椎捻挫の名残といったところでしょうか。
もちろんバレ・リュウ症候群、頚部交感神経症候群に相当するような「隠れむち打ち損傷」もあります。酔っぱらって仰向けに転倒して後頭部をぶつけてから頭痛、脚のだるさ、肩や首の凝り、腰痛が徐々に出現して一年以上続いているといいます。もちろん受傷時に病院は受診済み、それから医療機関を梯子しても良くならない、とのことです。「犬の散歩くらいの運動でもきつい」といいますからかなりしんどいのでしょう。こちらも頸椎を触診してみるとちゃんと圧痛がありました。調整は造作もなくできたのですがこれだけいろんな症状が出ているとそれだけでは改善してくれません。脊椎やら骨盤やらにも圧痛があって、これは転倒時のものかもしれませんが明らかに自律神経のバランスが崩れています。
こういう時にオステオパシー整体では、「頭蓋仙骨療法」を使います。患者さんの頭に軽く手を当てて、頭蓋骨の緊張を緩めていきます。頭蓋骨の下にある硬膜や脳も頭蓋骨が緩むにつれて一緒に緩んでいきます。頭蓋骨の調整、というとなんだか怖い気がしますけれど受けてみるとものすごくリラックスします。こちらのクライアントも直ちに爆睡されました。そのあと骨盤や脊椎の圧痛を調整して初日は終了。施術後、「身体が涼しい」という表現をしてくださったのが印象的でした。
それからは週に一回、頭蓋骨を調整して自律神経のバランスをとってから痛みのある所を処置していきました。このケースのように、長いこと痛みを放置しておいて無理して日常生活を送っていると生活動作がスムーズではありません。不自然な体の使い方であっちこっちに緊張が残っています。ひとつの痛みをとるとそのあとからまた別の痛みが出現して、またそれを解放すると…。という風に薄紙を一枚づつ剥がすようにしながら丁寧に施術していく必要があります。痛みによるストレスやら受傷時のトラウマやらを解放しつつ五回の施術でとりあえず終了しました。
むち打ち損傷といっても交通事故や、「リングでバックドロップで投げられた(実際にこういうクライアントがおいでになりました。プロの格闘家です。」という明らかな受傷機転のあるもののほかに、本人も意識していない「隠れむち打ち損傷」とでもいったものが存在することはあんまり知られていません。そのまま放置するとバレ・リュウ症候群に移行して様々な症状に悩むことになるのですがむち打ち損傷を意識されていないと「原因不明」になってしまいます。うちの治療院でも患者さんが来院されて最初に「むち打ちになられたことありますか?」と問診で伺うのですが「いいえ」とお答えの中の結構な割合が「隠れむち打ち損傷」だったりします。