醜形恐怖症と整顔と頭蓋オステオパシー
時折、「顔が歪んでいるけれど治せるか」というご相談を受けます。たとえば顎関節症のある方は咀嚼筋の緊張の仕方は左右で異なりますから頤が左右どちらかに偏ります。これは造作なく改善できますけれど、もちろん完全な左右対称にはなりません。
頭蓋骨を調整すると軟部組織の代謝がよくなりますから顔はすっきりした印象にはなります。この程度のことであれば頭蓋骨の調整技術のあるセラピストであれば(よっぽどのヘタクソでない限り)だれでもできます。ところがそういうのではなく、何かのきっかけで顔が歪み始めてあっちこっちの治療院で頭蓋骨を矯正してもらったけれど一向に改善しないと言われます。もとのお顔がどうだったかはもちろん知りませんけれど、拝見してみるとごくフツーの顔。それでも「顔が歪んでいる」と繰り返されます。
顔の歪みが気になるけれど、どこの頭蓋骨調整を標榜する治療院を受診しても改善しない、というケースで疑われるのは頭蓋骨の病変よりも「醜形恐怖症」という疾病かもしれません。醜形恐怖症というのは些細な、あるいは実際には存在しない外見上の欠点にとらわれることで、悩み苦しんだり日常生活に支障を生じたりする心の病です。
自分が欠点と思い込んでいる部位を隠そうと化粧をしたり帽子をかぶったり、ということを繰り返すほかに、美容整形や審美歯科の治療を繰り返し受ける、といった行動もみられるそうです。中には収入の大半をそういう行為につぎ込んでしまう、といったこともあるといいます。あちこちの頭蓋骨矯正の治療院をはしご受診される行動様式はまさに醜形恐怖症のソレだと考えます。
醜形恐怖症の患者さんが繰り返し受ける医療行為の中に治療院の「頭蓋骨矯正」が仲間入りするようになったのも時代の流れということでしょうか。それだけあっちこっちの頭蓋骨矯正を受けて変化も改善もしないのなら、むしろ頭蓋への手技が適応しないと考えたほうが合理的なようにも思うのですが。
何度も同じことを書きますけれど、自転する球であるところの地球上に生活している以上、イキモノはすべてアシンメトリー(左右非対称)です。これは欠点でも何でもありません。もしいろんな治療や施術を受けても顔のゆがみが直らない、ということにお悩みでしたら次の治療院やサロンを探す前に一度医師の診察を受けられることをお勧めします。
左右非対称が当たり前の人間の顔が、左右対称に見えるときがあります。頭蓋骨を調整するときは診察台に仰向きに寝てもらいます。その時点では自分の足で立っていませんから地球の自転とは無関係の状態です。そこで頭蓋骨矯正を受けて鏡を見ると(担当セラピストに『ほら、シンメトリーになっていますよ』と鏡を見せられると)、顔が左右対称に見えることもあるでしょう。ところが診察台を降りて自分の足で歩き始めたとたんに顔は自転の影響を受け始めます。完全に対称ではないという正常の位置に戻るだけなのですが、「顔は左右対称であるはずだ」という思い込みがあるとそれは歪んだ醜い顔として認識される、ということでしょう。
どれだけ頭蓋骨矯正に通院しても顔が左右対称になるというのは地球が自転を止めない限り不可能です。必ずどこかの時点で左右対称ではなくなります。それで何回か通院して「効果がない」ということで次の治療院を探すことになるのでしょうか。自分の顔が左右非対称であるということを気にする人はいくばくかでも醜形恐怖症の傾向はあるでしょう。そういう人の不安をたきつける行為は医療人というよりは商売人として不誠実だと思います。
自分の顔の歪みや非対称が気になって頭蓋骨調整を受けてみて、それでも歪み治らない、気になって仕方がないというのでしたらぜひ医師に診察を受けてください。整体、手技療法で顔が左右対称になるというセラピストは例外なく噓つきか不勉強のどちらかです。