マッサージを受けても全然楽にならない
われわれ手技療法を業にしているものがよく患者さんから伺うのが、「施術(マッサージや整体など)を受けた時は楽なんだけれど、すぐまた(症状が)元に戻ってしまう」という訴えです。これは手技によって緊張した筋肉を緩めても、交感神経の働きですぐまた緊張してしまうことによって起こります。心身が交感神経優位(戦闘モード)であるのを副交感神経優位(リラックスモード)に切り替えれば症状は戻りにくくなります。
ところがもうひとつのパターンがあります。「施術を受けても全然症状に変化がない」という方。いろんなセラピーでもこういう事実は認識していて、私淑している自然良能会の五味先生はこれを「自律神経が失調している」と表現しておられました。アプライド・キネシオロジーでいうスイッチングも、ストレイン・カウンターストレインでいうマーベリック・リージョンもきっと同じものだと思っています。ようは全然施術に反応してくれない患者さんに洋の東西を問わずセラピストは手を焼いていた(る)のでしょう。
近年、ポリヴェーガル理論というのが提唱されるようになって、それを応用すると手技療法家が手を焼くパターンを改善できることに気づきました。通常の施術に反応してくださらない患者さんは交感神経が優位になっているのではなく、副交感神経に属する背側迷走神経系が優位になっています。手技療法は基本的に緊張した筋肉を緩めることで症状を改善するのが目的ですから、心身の交感神経優位から副交感神経優位への移行を意図しているということです。
ところが心身が竦(すく)んでいるときは背側迷走神経系が優位、言い換えれば副交感神経優位の状態です。この時に副交感神経をさらに優位にする施術を行っても臨床的に無意味なだけではなく、患者さんはその施術を快く感じません。結果として、「施術を受けても全然変化がない」ということになってしまいます。ふつうの凝りや痛みを訴える患者さんでは緊張がほぐれていく感覚を快く感じますし、効果が持続しなくても術後は症状が改善しているものなのですが、背側迷走神経系優位のケースではそれがありません。
手技療法を行っていて、施術の途中でもセラピストはなんとなく「手応え」を感じます。そういうときは施術が終わって患者さんに症状の改善についてお尋ねするときもなんか余裕だったりします。ところが施術中に反応が薄いかたはたいがいの場合症状も改善してくれません。そういうときは自律神経のバランスを、交感神経が優位になるように調整すると奏功してくれることが多いです。