左右対称という呪い

骨盤でも頭蓋骨でもそうなのですが、あっちこっちで話をしたり文章にしたりしている通り、左右対称にはなりません。別に人間に限った話ではなく、左右対称の生き物は存在しない、ということです。解剖学的に心臓は左、肝臓は右に偏っているのですが、私がここでいうのは外観の話です。

例えば腰痛患者さん。下肢長の左右差を調べて骨盤の「歪み」を確認します。「ほら、こんなに骨盤がズレていますよ。」と言われれば患者さんは「なるほど」と納得されるでしょう。実際には全く腰痛のない患者さんでも下肢長の左右差はあります。心身の緊張が強ければ(だいたい治療院においでの方はそういう傾向でしょうね)下肢長の左右差も強く出ます。

骨盤矯正でも何でもいいや、何か施術を行って緊張が緩めば腰痛は改善するし、下肢長の左右差もなくなります。実際には腰痛と脚長差が存在することの間には関係はありません。腰痛が起きるほど心身の緊張が強い患者さんでは左右の脚長差が著明に出る、というだけのことです。緊張の強さのバロメーターとして脚長差を確認することと、脚長差が存在するかしないかを検査することとはやっていることは似ていますけれど臨床的な意味合いは全く違います。

これもいつも文章にしている通り、自転する地球という球の上で生活しているイキモノは、地球の自転に合わせて身体を歪めながら生活しているのが本来の姿であるからです。なので自転の影響を受けない診察台の上で施術を行った直後はおそらく下肢長の左右差はほとんどゼロになっているはずです。ところが地面に立って歩行を始めるや否や、せっかく?左右対称になったはずの骨盤はまた地球の自転に合わせて非対称に歪み始めます。もし施術後何か月か経過してから再び腰痛が起きたとして、下肢長を調べてみれば当然左右差が存在しています。「また骨盤がズレていますね」みたいなことを言われるのですが、何のことはない、前回来院して腰痛が楽になって帰宅したその時点で下肢の左右差は「再発」していたはずです。

治療家が集まって手技療法の勉強をすることがあります。中には不摂生なオッサンもおりますが特段腰が痛い人ばかり、ということはありません。(逆に勉強会の時に腰が痛い参加者がいればその腰痛がその日のテーマになったりもします)でも、例えばその時点で参加者みんなの下肢長はどうなっているか。間違いなく全員非対称です。実際私は数年間にわたり骨盤調整法の研究会に参加していたのですが、左右対称の骨盤には一度もお目にかかったことはありませんでした。おそらく研究会の会場が宇宙空間にでもならない限りずっとそうなるであろうと思います。

美顔とか整顔とか呼ばれるジャンルでも事情は同じです。下肢長の左右差と同じく人の顔も左右は非対称です。ただ、一見して左右で顔が非対称に見えるかどうかというのは別の問題です。ストレスやら歯科治療の影響やらで顔の非対称が目立つ方の頭蓋骨を調整すると、顔はその時点ではほぼ左右対称になります。どうしてかと言えば仰向けで診察台(手技療法の世界ではテーブルと呼びます)に寝ていて地球の自転の影響を受けていないから。ところが地面に立って歩行を始めるとその時点から顔は「歪み」はじめます。それは全く生理的な現象であるにもかかわらず、さらに一見しても非対称は目立たなくなっているにもかかわらず、「顔が左右対称ではない」ことを気にする方がいます。

それはセラピストが骨盤と同じレトリックを使って、「顔は左右対称であるべき」という刷り込みをするからです。言ってみれば人為的に醜形恐怖症をこしらえているようなもんです。その結果、「顔が左右対称である」ことを自己目的化した患者さんが回数券を買ってしんどくもなんともないのに治療院に通院、ということになります。あほらしい。

骨盤でも頭蓋骨でも左右の非対称の程度は、症状の改善状況を知るための指標にはなります。でも、骨格が左右対称であるのは骨格標本だけです。イキモノは地球の自転に合わせて身体を自在に歪ませて生活するのが正常な姿です。その動きが制限されると心身の不調になって顕れる、と理解してください。ことさらに左右の非対称(特に顔)を言い立てるセラピストには気をつけたほうがいいです。

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