「痛み止めが効かない痛みが治った」のレトリック
長い間痛みに悩んできた人が、痛みから解放された、というパターンの話は健康本やら臨床家のブログやらでよく目にします。ひょっとすれば私のブログにもそういう記述があるかもしれません。そういう時の決まり文句のひとつに、「病院で処方してもらった痛み止めが全く効かない」痛みが自分のところの治療で治ってしまった、というのがあります。
なんかそれだけを見ているとすごいことのように思えるのですが本当でしょうか。さて痛みというのは大まかに分けると3種類になるそうです。侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛。侵害受容性疼痛というのはケガをした時の痛みのことです。神経障害性疼痛というのは何らかの原因によって神経が障害されて痛みが生じたものを言います。いわゆる慢性痛はここに入ります。そうして最後の心因性疼痛は読んで字のごとく、さまざまなストレスによって生じた痛みを指します。実際にはこんなにきっちりと分類できるものではなく、ひとつの症状でもさまざまな要因が入り混じって発生しているのは臨床家の端くれとして私も承知しています。
たとえばずっとデスクワークをしている人が自宅で体操をしていてギックリ腰を起こした。それ以来腰をかがめたときに「ピリッ」とした痛みが走るようになった。痛みそのものは大したことはないがいつ痛みが出るか気になってイライラする。こういうケースだと上の分類のどれに該当するのかよくわかりません。それでね、こういう腰痛患者さんに痛み止めが効くかというとたぶん効きません。
一般的に医療機関で痛みに対して処方される薬剤を、その頭文字を取ってNSAIDsと呼びます。私たちが「痛み止め」といわれてイメージするような医薬品は基本的にこのNSAIDsに分類されます。そうしてこのタイプの痛み止めが効くのは侵害受容性疼痛の患者さんだけなのだそうです。「そうです」と書いたのは私が医薬品については素人であるからです。ただ、一般的に医療機関で処方される痛み止めが効くのは、ケガをした時の急性期だけというのは納得がいきます。NSAIDsの効果効能はケガの急性期、炎症による痛みであるからです。なんせ正式名称は「非ステロイド性抗炎症薬」ですから炎症による痛みに効果がある、逆に言えばそれ以外の痛みには効果がない薬であることは素人の私が見ても理解できるということです。
にもかかわらず患者さんが「痛い」と訴えたらどういうケースでもまずNSAIDsが処方されることはごく一般的なことなんだそうです。(NSAIDsには湿布薬もある)そこにはいろんな事情があったりなかったりするのでしょうね。
私がそれより気になっているのは、冒頭にも書いたように「痛み止めが効かない」ことをもって症状が重篤であるような錯覚を起こさせる一部セラピストのレトリックの使い方です。補完医療を受けられる患者さんはおそらくは急性期、炎症のある時期を過ぎてからおいでになると思います。痛み止めが効かないのはむしろ当然のことで、その理由について適切な説明をしたうえで施術を行うことが医療者としての態度であると思うのですがいかがでしょうか。最近見た例では漢方薬局の薬剤師さんまでがこのレトリックを使っていました。
補完医療は現代医学を補完する立場であるべきで、アンチテーゼになってしまうのはどうかといつも思っています。その根底には正規医療や医師に対するコンプレックスが潜んでいると考えるからです。医師のごとくふるまいたがるセラピストに碌なやつはいない、と私は思っています。