顎は頭蓋骨からぶら下がってカラダのバランスをとっている
私たちが「顎」と言われて考えるのは下顎骨だと思います。頭蓋骨はパズルのように組み合わさって運動することはできませんが、下顎骨は頭蓋骨からぶら下がって自由に動くことができます。顎関節の役割はもちろん咀嚼や発声ですが、カラダの調整の平衡感覚の調整も顎関節の機能のうちのひとつです。
おもりを糸でつるして建物の傾きを調べる道具に「下げ振り」というものがあります。下顎骨も頭蓋骨からぶら下がっていますから重力によって常に鉛直方向に引かれます。カラダを斜めにすると下顎骨と体幹の傾きにギャップが生じます。それによって脳はカラダの傾きを認知することができます。ボクシングで顎を打たれるとバランスを崩して倒れるのは、本来鉛直方向に引かれているはずの下顎骨がパンチの衝撃をうけて不安定になったのを脳が認知できなくなって混乱するからです。「下げ振り」のおもりが風で揺れると傾きが測定できなくなるのと同じ理屈です。
ただ、下顎骨は「下げ振り」のおもりのように一本の糸でぶら下がっているわけではありません。左右の咀嚼筋によって頭蓋骨(側頭骨)とつながっています。左右の咀嚼筋のどちらかだけが緊張すると下顎骨は反対方向に傾いて鉛直方向を示さなくなります。
歯科治療を受けていて左右どちらかの歯でしか噛むことができない時に肩が凝ったり頭痛がしたりという経験はどなたもお持ちでしょう。たぶんおもりと違って下顎骨はただぶら下がっているだけではありませんから、下顎骨の位置のほかに咀嚼運動がイレギュラーになっても脳はそれを認識して結果として平衡感覚は異常をきたすでしょう。建物に歪みがあると住んでいる人が健康を損なうという話はよく聞きますが、顎関節や咀嚼運動に問題があるとそれと同じことがカラダに起こるということです。
実際、腰痛やら頭痛やらの患者さんで、顎関節の調整が奏功することはそんなに珍しくはありません。顎関節や噛み合わせの調整が万病の原因であるとは言いませんが、少なくとも原因のひとつであるとは思います。
顎関節のセルフケアはどうするか。東洋医学にもご造詣の深い歯科医師の宮城三郎先生が顎の癖と凝りをとる体操を提唱されています。顎の力を抜いた状態から①口をいっぱい開いて5数えて、顎の力を抜く ②下顎を右に動かして5つ数えて力を抜く ③下顎を左に動かして5つ数えて力を抜く ④下顎を前に突き出して5つ数えて力を抜く ⑤下顎を後ろに引いて5つ数えて力を抜く ①から⑤までを3セット行います。痛みが出る場合はその運動は省いても構いません。