ストレスの「しるし」は鎖骨の下に現れる
腰痛の原因にストレスがあります。心身にストレスを感じると交感神経が興奮して筋肉が緊張します。緊張した筋肉は何かのはずみでケガをしやすくなります。ちょっとしたものを持ち上げてもギックリ腰を起こしてしまう可能性が高いです。筋肉がずっと緊張したままだとそれだけで骨盤が「歪んだ」状態になります。厳密には撓んだ、が正しいと思うのですがいずれにせよ骨格に問題が起きます。これはどちらかというと慢性の腰痛の原因となります。
反対に腰痛は大きなストレスの原因となります。出張や旅行前に腰を傷めて来院されるケースというのが時々ありますが、大体皆さん怒っておられます。「なんでこんな時に腰が痛くなるんだ」という気持ちはよくわかりますが、私に怒られても困ります。痛みのためにやりたいこと、やるべきことができない。あるいは単純に思うように動けないということはものすごいストレスになります。
腰痛とストレスと、どちらが卵で鶏なのかはわかりませんが、怒っていると腰痛になりやすく、腰痛の人は怒っているというのは事実です。これは何も私の発見ではなくアメリカの整形外科医、ジョン・サーノ博士がずっと以前から提唱されていることです。博士は自身のクリニックでは腰痛患者さんに一切の物理的な治療を行わず、ひたすら心理療法を行うといいます。精神科の医師ではなく、成型・リハビリの専門医であるところが興味深いところではあります。
さて、偶然のきっかけからトラウマとかストレスがある方の鎖骨の下に圧痛があるのに気が付きました。鎖骨の下のヘリを丁寧に触診していくと明らかに押さえて痛い部分が見つかります。左右同じところが痛い場合も、左右で圧痛の箇所が異なる場合も、どちらか片方の鎖骨の下にだけ圧痛がある場合もありますがとにかくメンタルに問題があれば鎖骨の下に圧痛が現れるというのは間違いありません。
あるときギックリ腰の患者さんが来られました。例によって怒っています。鎖骨の下を触診すると強い圧痛があります。腰痛の治療が進み、痛みが減ってくるにつれて患者さんの怒りは和らぎ、それから鎖骨下の圧痛も減っていったのです。ふつうに動けるようになられたときには、鎖骨の下の圧痛は消失していました。
調子に乗った私は次にギックリ腰の患者さんが見えたときに、鎖骨下の圧痛をカウンターストレインという手技を応用して解消してみました。さすがにそれだけで腰痛が治ってしまうということはなかったのですが明らかに通常よりも早い回復が見られました。ストレスで腰痛を起こすと、今度は腰痛がストレスになる、という悪循環は少なくとも絶たれたのだと思います。
ストレスに起因する症状は腰痛のような著明な症状とは限りません。事務職をしておられる患者さんに、「ずっと瞼がひくひくする」という相談を受けたことがあります。パソコン仕事だから眼が疲れたのか、ということで眼科を受診しても異常なし。何か怖い病気ではないか、ということで脳神経内科を受診してMRIの検査も受けたけれどこちらも異常なし。「ストレスが原因だと思われるので、できるだけ休養をとってください」と言われてもそんなことは無理ですよね。それで、病院に通院しながらうちの治療も受けてくださっていました。ところがあんまり改善しませんでした。
もちろんお仕事のストレスもあったでしょうけれど、常に瞼がひくひくするというのも気になるものでしょう。施術後はいくらかマシになるものの、やっぱり瞼が痙攣するという日々が続きました。別に痛みがあるわけではないですけれど、これもやっぱりストレスですよね。それからしばらくしてストレスのある方の鎖骨下に圧痛があることに気が付いたとき、当然この患者さんの鎖骨下も触診してみました。果たして強い圧痛がありました。
カウンターストレインで圧痛を消して、それからセルフケアで鎖骨下の圧痛を消す方法を教えました。そうしたらあれだけ悩まされていた瞼のけいれんがきれいに取れたのです。仕事は相変わらず忙しく、ずっとパソコンとにらめっこの日々だといいますし、仕事上のストレスが軽減した、ということでもないでしょう。おそらくはこの患者さんのケースも、症状と、症状による悪循環というか堂々巡りが、鎖骨下の圧痛を消すことで解消されたのでしょう。