膝の痛みの原因は膝関節とは限らない
膝の痛みを訴える人はたくさんおられます。私もかつて半月板を傷めたことがあるのでそのつらさはわかります。歩いているときに違和感を感じるようになって数日後、ちょっと高いところに上がろうと踏ん張ったら膝関節が「みしっ」と鳴って次の瞬間激痛が走りました。歩こうにも膝が笑って力が入らない。そういう状態を「膝崩れ」と呼んだ先人に関心する余裕もないくらいの激痛でした。
膝を怪我して膝に痛みが出た、当然のことのように思われます。ただ、「膝が痛い」と言っても膝が原因であるとは限りません。股関節に何らかの問題があるときに患者さんの愁訴が「膝の痛み」であることはよく経験します。高齢者が転倒して大腿骨頚部を骨折することがあります。頻度は低いのですが折れた骨同士が嚙み合って歩行可能なケースがあります。そういう時の訴えは「転んで腰を打ってから膝が痛い」だったりします。私も一例だけ経験したことがあります。もちろん治療院でどうすることもできませんから病院の受診をすすめました。
歯の治療をして顎関節に問題が起きる時があります。顎関節症と呼ばれます。顎の痛みで口を開けられなくなります。もちろん頭蓋骨を調整すれば楽になります。それが不思議なことに顎に問題があるときに股関節に痛みが出ることがあるのです。もともと頭蓋骨と骨盤はシンクロしているといわれていて顎関節は股関節に対応しています。痛みも顎関節から股関節にシンクロしたのでしょうか。「原因不明」の股関節痛の原因が歯科治療による顎の問題である、というよくわからないことになってしまいます。さらにややこしいことに股関節の痛みは膝の痛みとして認識されることがありますから、膝の痛みの原因が顎関節というパターンもあります。
坐骨神経痛の症状を「膝が痛い」と訴えられるケースもあります。そもそも患者さんのおっしゃる「膝」が解剖学的な「膝関節」を指しているとは限らないのですが、ひたすら膝関節に低周波を流しホットパックで温め湿布を貼って「明日もおいでね」、と送り出す治療院もなくはありません。この場合はもちろん腰椎や骨盤の圧痛を見つけて調整しないと治りません。
かつてはある年齢以上になって膝の痛みを訴えると、「変形性膝関節症」の診断がそれこそ判で押したようについてきたものです。(ちなみに腰痛を訴える場合は骨粗鬆症と腰部椎間板ヘルニアでした)そういう方の膝関節の痛みは、膝関節を曲げる筋肉と伸ばす筋肉のバランスをとってから伸縮性テープを貼るとだいたいは良くなってくれました。もちろん膝関節内の「変形」は改善していないでしょう。でも、日常生活は格段に楽になられたはずです。セラピストの仕事は傷病を治すことではなくて患者さんの症状をやわらげ、日常生活が機嫌よく遅れるようになるお手伝いをする、ということです。
ずっと以前のこと、「歩きにくい」という患者さんを拝見したことがあります。パーキンソン病の診断がついていて頭蓋骨調整で悪戦苦闘しながら施術を続けていました。なかなか思うように歩けないということで整形外科を受診されて、「変形性膝関節症」の診断がつきました。どういう説明があったのか知りませんが両膝の関節置換術(人工関節に入れ替える手術)を受けられましたがやっぱり思うように歩くことはできず、すぐに車椅子を使うようになられてそのまま逝去されました。