妊婦さんの腰痛はテーピングで治る
妊娠7か月くらいになって、急におなかが大きくなると腰痛に悩まされる妊婦さんがでてきます。妊娠が判明した段階で「母親教室」に行くとあらかじめ予告されると言います。
「妊娠後期には腰痛が出ます」「お腹が大きくなることで腰椎が前弯するのが原因です」「したがって出産するまで腰痛は治りません」「ひたすら我慢してください」「湿布薬をお出しすることもできますが気休めにしかなりません」というようなことを説明されるそうです。だから腰痛が出た妊婦さんは「ああ、これから我慢の日々か」と絶望的な気分になるそうです。それはそうですよね、ただでさえ出産の不安やら場合によっては産休中の仕事の引き継ぎやらで大変なのに腰痛が起きる!といわれているのですからたまったものではありません。
妊婦さんの腰痛の原因はおなかが大きくなって脊椎の前弯が強くなること、骨盤が緩んでくることなどが挙げられます。昔からそういう風に認識されてはいたようで、お嫁さんが妊娠して腰の痛みを訴えると姑さんがマスに入れた豆を座敷にぶちまけてそれを箸でひとつづつ拾わせる、ということをしていた地方があった、と古い整体の本で読んだことがあります。確かに理にかなった方法のようではありますが少々違ったニュアンスを感じるのは私だけでしょうか。
妊娠して腰痛になっても病院は取りあってくれませんから、例えば整骨院に相談に見えることがあります。中には妊婦さんに骨盤矯正を行う、というところもあるらしいですが、私にはそんな無謀なことをする度胸はありません。もしこれをお読みになっておられる方でそういう施術を受けておられたり、勧められた方は直ちにやめましょう。
かつて私も妊婦さんの腰痛のご相談を受けたことがあります。その当時は産婦人科の医師と同じように、出産するまでどうしようもないと考えていたのですが一時的にでもどうにかならないものか考えました。それで思いついたのがテーピングです。伸縮性のテーピング用テープ(幅5センチのものがいいです)を背骨を挟むように左右二枚貼ってみました。首の後ろの背骨のでっぱりくらいの高さから骨盤の上くらいまで。実はこれ、ぎっくり腰の時に使うテーピングの処方です。貼るとすぐに患者さんは「すごい楽になった」と喜んでくださいました。
テーピングは長時間貼ったままにしておくとかぶれますから数日たったら貼り替えに来てください、と説明して帰しました。それから二回テープの貼り替えに来院されて、そのまま来院が途絶えてしまいました。ああ、やっぱりテーピングだけではうまく腰痛をコントロールできなかったか、とがっかりしました。
それから数か月後、その妊婦さん、ではなくお母さんが乳母車を押して歩いておられるのに出会いました。もちろん腰痛について伺ったところ、意外な答えが返ってきました。何回かテープを貼り替えていたところ、痛みがなくなってしまったというのです。テープを貼らなくても痛みは再発しない、ということで通院をやめてしまったそうです。
妊婦さんに限らず腰痛というのは腰に何か無理な力が加わったときに、腰椎を守ろうとして腰周りの筋肉が緊張して動きを制限するために起こります。妊婦さんの腰痛は急激におなかが出てきたときに状況を把握できなくなった脳が一時的にパニックを起こして腰周りの筋肉を緊張させたものと考えます。一時的にせよテーピングで痛みが緩和されたことで脳が状況を把握して筋緊張は消退した、と考えるのが正解でしょう。もちろんおなかは出たままです。何例か追試してみましたがだいたい同じような結果が出ました。
ついでに言えば「治らない」「我慢するしかない」という説明が腰痛を増悪させている可能性があると思います。例えば腰痛を訴える妊婦さんに「これは妊婦さんの腰痛専用に開発された湿布薬だからきっと聞きますよ」みたいなことを言って湿布薬を処方すればテーピングでなくても効くと思います。
実はこれと似たことは腰椎椎間板ヘルニアでも報告されていて、腰痛のあるヘルニアの患者さんにブロック注射をしたところ、それきり腰痛が消えてしまったそうです。別にヘルニアがなくなったわけではなく、注射の前後で画像に変化は見られなかったといいます。
当時のオステオパシー仲間にとある病院勤務の助産師さんがいて、妊婦さんの腰痛に困っておられたのでこの話をしたらたいそう喜んでくれました。ひょっとしたらそこの病院では妊婦さんの腰痛はなくなっているかもしれません。
伸縮性テープは百均でも売っていますけれど「キネシオロジーテーピング用」かそれに類似した名称のものが薬局で売られています。5センチ幅のものを貼付してください。引っ張って貼ると皮膚がかぶれます。貼る位置は背骨を挟んで上は頸椎のでっぱりの高さから下は骨盤辺りまで。神経質にならなくても大体そのあたりで十分に効きます。下手な貼り方をしても多少効果が落ちるだけで副作用の類はありません。