腰痛患者を寝かせてみると
眠るときの姿勢は「壁と平行」
食生態学者の西丸震哉という方のエピソードです。あるとき、「人間はどうして眠るときに壁に平行に寝るんだろう」と思いつき、部屋の真ん中で斜めに布団を敷いて寝てみました。それを見た西丸氏のお兄さんが、「弟がおかしくなった!」と叫んだといいます。お兄さんは医師だったのですが、人間は本能的に壁に平行に寝るようになっていて、わざわざ斜めに寝るというのは正気の沙汰ではないのだと説明してくれたそうです。西丸氏は多数の著書を残しておられ、今読んでも新鮮に感じる内容なのですが、ベースには常人では思いつかないような発想があったのでしょう。
言われてみればその通りで、例えば旅館でもホテルでもベッドや布団は壁と平行になっています。斜めになっているのを見たことがありませんが、もしあれば異様な感じはすることでしょう。医療機関や私の治療院でもやっぱり斜めに診察台を置くようなことはしていません。何にもない部屋で寝袋で眠るといったケースでも、きっと壁と平行に寝るだろうとも思います。寝袋ついで?に言うとキャンプでテントの中で眠るときでも斜めに寝ることはないように思います。逆に、泥酔して帰宅、そのままの恰好で眠ってしまったというケースでは斜めに寝ていそうな気もします。
腰痛患者さんは診察台に斜めに寝る
それで、腰痛患者さんがうちの治療院を受診されたケースを考えてみます。急性慢性を問わず、基本、診察台にうつぶせに寝ていただきます。すると不思議なことに斜めに寝る方が結構な割合でおられます。ちょうどベッドの対角線上に寝るような形。正確に言うと頭は診察台の真ん中なのですけれど、両脚が左右どちらかの角に偏った姿勢になります。それで、私が患者さんの足をもって寝る姿勢をまっすぐに直すと、「えー?、それがまっすぐなんですか?」と驚かれることも多いです。
腰痛患者さんの右脚は短い
そういう患者さんは左右で足の長さが異なって見えます。たいがいは右脚が短く見えます。まっすぐの姿勢で右脚が短く見えるのであれば、左右の踵が揃うような肢位というのは両脚が右側に偏った姿勢ということです。ちょうど患者さんが診察台に上がって自然にうつぶせになった姿勢が、まさにそれです。患者さんは重力から解放された診察台の上でも本能的に左右の踵を合わせようとしますから,両方の脚が診察台の右側に偏ってしまうことになります。
「右脚が短い」というときに、「それは骨盤がずれているからだ」という説明をすることが多いです。確かに仙腸関節を調整すると脚の長さの左右差は改善します。ただし頑丈な骨でできていてなおかつ強靭な靭帯や筋肉でおおわれている骨盤が簡単にずれたりゆがんだりするにはどう考えても変です。実はもともと人間には脚長差があって、たいていの人は右脚がわずかに短いです。脳がストレスを感じて骨盤周りの筋肉が緊張すると、骨盤の「たわみ」が大きくなります。その結果もともとの脚長差が強調されて目立つようになります。
人間が本能的に壁に平行に寝ようと思う理由はわかりません。ただ、西丸震哉氏のお兄さんが言うように、斜めに寝てしまうということはどこかで脳が機能していない可能性はありそうです。診察台に斜めに寝ている腰痛患者さんを見ながらそんなことを考えました。