椎間板ヘルニアは「治る」のか
割とよくある「椎間板ヘルニア治療体験記」
あなたに腰が痛い、または脚がしびれるという症状があったとします。整形外科に行って画像診断してもらって医師から「腰椎椎間板ヘルニア」の診断を受けます。痛み止めの薬をもらって、毎日リハビリに通っても痛みは一向に改善しません。業を煮やしたあなたは評判の良い治療院(整骨院でも整体院でもかまいません)を受診します。何回か通っているうちに、あれだけしつこかった痛みがきれいに治ってしまいました。
もしあなたの周りに、かつてのあなたと同じように腰痛に悩む人がいたらきっとあなたはこう言って自分が通っていた治療院をすすめるでしょう。「私も椎間板ヘルニアでずいぶんつらい思いをしていたんだけれど、あそこの治療院に言ったらすぐに治ってしまったよ。だまされたと思ってあなたも行ってごらん。」
ヘルニアは「治った」のか?
あるいはあなたが通っていた治療院の先生は、自分のブログやホームページにこう書くでしょう。「椎間板ヘルニアが完治した。」「ヘルニアを治した。」当たり前のように聞く話なのですが、これは本当に本当なのか?
たとえばですね、あなたが最初に受診した整形外科で以前腰が痛かった時と同じように画像を撮ってもらったとします。たぶん間違いなく、画像所見は変わっていないと思います。痛みが全く消失しているにも構わらず、もし、その画像だけを見て傷病名をつけるのならやっぱり「腰椎椎間板ヘルニア」ということになってしまいます。
ヘルニアの有無と痛みの関係
実は腰痛症状のない人でも、画像を撮ってみると椎間板ヘルニアの存在する方は一定数おられるそうです。反対にこういう話を聞いたことはありませんか?激しい腰痛があって椎間板ヘルニアの診断を受けた。すすめられて手術を受けたがやっぱり腰痛は改善しない。こちらはヘルニアはなくなったのに腰痛が残るケースです。
ようは画像所見と腰痛の症状は必ずしも一致しないということです。別に整形外科を非難するつもりはなくて、むしろセラピストが吹聴する「椎間板ヘルニアを治した」という文言の意味するところをよくご理解いただきたいと思ってこの文章を書いています。治療院で治ったのはあくまでも患者さんが訴える腰痛であり下肢痛です。ヘルニアそのものがなくなったのではないことを案外患者さんや、そうしてセラピストは忘れてしまいがちです。これは腰椎すべり症でも、それから膝などの変形性関節症でも同じことです。私だって三十年以上セラピストをやっていますから、「医療機関で治らなかった」症状が楽になったと喜んでいただいた経験は多少なりあります。そういう時は私だって得意になります。
ただしそういうときも、自分の知識や技術が及ばない範囲のほうが多いことは自覚するようにしています。いわゆる現代医学の批判しかしないセラピストは、人の命に対するリスペクトを欠いていると思っています。