高齢者の大腿部痛
大腿部痛の原因は歩幅の減少
ご高齢の方の大腿部痛についてご相談をいただきました。モップかけをしたところ翌日から痛みが出始めたといいます。年齢を重ねるほど関節の可動域は小さくなっていきます。理由のひとつに筋肉の萎縮が考えられます。骨折などの治療で固定を行うと関節周囲の筋肉が硬くなってしまい関節可動域が減少します。これを拘縮と呼びます。加齢による筋肉の萎縮でも似たようなことが起きる、とお考え下さい。高齢者の歩幅が小さくなり足元がおぼつかなくなるのも筋肉が十分に伸縮しなくなったのが原因です。
高齢者に好発する骨折に大腿骨頚部骨折があります。骨折の部位によっては大腿骨転子部骨折と呼ばれることもあります。大腿骨が付け根のところで骨折してしまい起立歩行が不能となります。かつては高齢者が寝たきりになる原因にもなっています。現在では手術療法で起立歩行はの機能は回復しますが、重篤な骨折であることには変わりありません。
骨折が先か、転倒が先か
従来この骨折は、高齢者が転倒した際に大転子部を強打して発生すると言われてきました。ところが実際には何かに躓いたとき、足に加わった力が大腿骨頚部に波及して骨折が起きることもあるとわかってきました。骨折すれば立っていられませんから転倒します。つまり転倒して骨折が起きたのではなく、骨折して立っていられなくなって転倒というパターンもあるということです。
躓いたときに足にかかる力は同側の下肢を外側にねじる力として働きます。股関節周辺の筋肉が緊張しているため股関節は十分に動くことができません。そこへ下肢を捻じる力が大腿骨頚部(高齢者では骨粗鬆症でもろくなっている)に加わり骨折が起きるということです。
ご相談のケースでは普段しない姿勢での運動(モップかけ)が骨折と同じように大腿骨頚部にかかることで大腿部の筋肉に負担がかかり痛みが出現したということでしょう。
ゴムバンド体操は痛みだけでなく骨折の予防にもなる
ご相談には「弾力のあるもの、例えばストッキングや和装で使う伊達締めで骨盤を締める方法を提案しました。ちょっときついくらい。それで日常生活を送るだけでも股関節周辺の筋肉は緩みます。もうちょっと体力があったり運動してみようかな、というときはフラフープの要領で大きく腰を回します。
実施後二日くらいで徐々に効果は出はじめています。よかったよかった。
お気づきの方もおられるかもしれませんが、これは骨盤の矯正に使われるゴムバンドと同じ理屈です。骨盤に弾力性のあるバンドを巻いておくと股関節周辺の筋肉が緩んでいき、骨盤のズレが矯正されると言われています。実際のところは骨盤はズレたりゆがんだりするものではなく、周囲の筋緊張で撓んで変形しているにすぎません。ストレスによる筋緊張でも加齢による筋肉の萎縮でも骨盤に影響しますから、大腿部の痛みにもゴムバンド(又はストッキングや伊達締め)体操は効果的です。たぶん大腿骨頚部骨折の予防にもなると思います。