頭蓋骨は本当に歪むのか

顔面部の骨と筋肉

「頭蓋骨がズレる」とか「歪む」とかいう表現は手技療法の世界でよく使われます。私も患者さんへの説明やこのブログの記事でもしょっちゅう使っています。それでは頭蓋骨のズレ、歪みとはどんなものなのでしょうか。

頭蓋骨を手技療法で調整することを思いついたのは1世紀ほど前に活躍したオステオパシー医、ウイリアム・ガナー・サザランド博士です。サザランド博士はオステオパシー医学生時代、頭蓋骨を観察していて「なんか頭蓋骨って動きそうな気がするなあ」と考えました。それでご自分の頭のあっちこっちに頭蓋骨の動きを制限するような装具をつけてみてその時に起きる体の不調を記録していったといいます。そうして、頭蓋骨は動いていて、その動きが制限されるとさまざまな不調の原因となるという理論を構築して生涯その研究に従事されました。

なので、当初より頭蓋オステオパシーが施術の対象としているのは頭蓋骨のズレとか歪みというよりは、むしろ動きの制限ということになります。それでは何が頭蓋骨の動きを制限するのか、と言えば筋肉です。頭部顔面を覆う筋肉の緊張が頭蓋骨の動きを妨げて、さまざまな症状を引き起こします。頭蓋骨の動きというのは脳脊髄液の循環に伴って起きている頭蓋骨の自動運動のことで肺呼吸のように一定のリズムで繰り返されます。その「呼吸」を妨げる要因として顔面頭蓋の筋緊張があるということです。

頭蓋骨の調整では、標的の骨に術者の指を当てて5gの力で牽引します。初め動かなかった骨が徐々に牽引に反応します。さらに牽引を加え続けると手指には弾力性の抵抗を感じます。最終的に弾力性の抵抗は消失して頭蓋骨の緊張は解放されます。それでね、このプロセスが「筋膜リリース」という手技とよく似ているのですよ。ごく軽い力で四肢や体幹を持続牽引して、筋膜の緊張を緩める手技です。頭蓋骨の場合は筋緊張が解放されてからさらに牽引することで硬膜にアプローチしていくところが異なりますが、手法としてはごく近いものであると思います。

それかあらぬか、頭蓋仙骨療法の手技のいくつかが「筋膜リリース」のテキストで紹介されています。私が全くの初心者に頭蓋仙骨療法を教える時も(医療関係者対象にセミナーを行っています)筋膜リリースの要領で頭蓋の調整を行うように指導していますが、それだけでも効果は出ています。頭蓋仙骨療法の教え方としては邪道なのでしょうけれど、やっていることの本質に変わりはありません。

頭蓋骨のズレとか歪みと呼ばれる現象は頭蓋骨の動きの制限ということです。その原因として考えられるのは、1.頭部頭部顔面の筋緊張、なのですが 2.硬膜の緊張 3.外力(直達外力とか歯科診療の影響)という要因も存在します。外観とか触診とかで頭蓋骨の形態が「歪んで」感じられることはよくあるのですが、これは骨盤のズレと同じく筋緊張によって骨格が撓んだ状態なのだと思います。

「動き」の問題を「形態」に置き換えて説明することで格段にわかりやすくはなるのですが、これが頭蓋オステオパシー、頭蓋仙骨療法をインチキ臭く見せる要因になっていたりもするのでしょうね。

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