手根管症候群は手術しないでも治る、かもしれない
正中神経が麻痺すると母指球の筋肉が削げる
定期的に施術に伺っている広島市のF医院さまでの症例です。私より少し年配の患者さんで、他に主訴はあったのですが、「この手、治る?」というお尋ねがありました。
拝見すると母指球の筋肉が見事に削げています。定型的な正中神経麻痺、猿手です。手を酷使されるお仕事なのですが、思うように手が動かせないとおっしゃいます。ちょっと目方のあるものを持つこともできないし、家の鍵もこっちのほうの手では開けられないとのこと。
傷病名をつけるなら(私は医師ではないので傷病名をつけることが法的にできません)手根管症候群になります。上肢には橈骨神経、尺骨神経、正中神経と3つの神経が通っていて、手の運動を司っています。手を酷使することでそのうちの正中神経が手首のところの神経の通り道(手根管)で絞扼されて麻痺を起こします。
手根管症候群の所見と治療
正中神経が麻痺すると、親指と人差し指でものをつまむことができません。両手の甲を合わせて手背を押し付け押し付けると1分以内にしびれ感が出現、と教科書には載っていますが痛くてとてもそんなことはできんわ、とのこと。ごもっともです。それから手根管をトントン、とつつくとこちらもしびれ感が出現します。母指球の筋肉が落ちている様子から見ても、なかなかしんどそうです。
主訴の治療を先にやってしまって、残り時間で手根管症候群をケアします。頸椎と、肩の後面の圧痛を処置します。それから手首の調整をします。手根管の圧痛をモニターしながら痛くない方向にねじっていき、そのまましばらくその肢位を取らせます。
患者さんは「こんな簡単な治療で治るの?」という目で見ておられます。母指球がぺったんこになっていますから不安になられるのも当然ではあります。でも、月に一回の施術で徐々に症状は改善し始め、母指球にも肉がついてきました。一般的に手根管症候群の治療は装具やステロイドの注射を行います。筋の萎縮があるものは手術の適応なのですが、うまいこと治ってくれました。
器質的疾患と機能的疾患
手根管症候群の原因は、手の酷使のほかに手首の骨折後の変形や、手根部のガングリオンなどが挙げられます。そういう器質的疾患があったなら手技療法は奏功しなかった可能性が高いです。(それでもやってみる価値はあると思ってはいますけれど)治るように環境を整えてあげると、人のカラダは治るようにできているのでしょう。