胸鎖関節は上肢のかなめ
胸鎖関節と上肢機能
胸の真ん中にある骨を胸骨と呼びます。胸骨と鎖骨とがつながっているところを「胸鎖関節」と呼びます。ごくまれに脱臼したりしますけれど、普段あんまり意識するところではありません。ところが、です。この胸鎖関節、臨床上は大変重要な部位なのです。
ご自分の鎖骨をさわってみてください。それで鎖骨をさわったまま腕を動かしてみてください。腕の動きに合わせて、鎖骨も動きますよね。上肢というと、指先から肩関節までをイメージする方が多いと思うのですけれど、「動き」の上では鎖骨も上肢ということになります。ですから胸鎖関節は上肢の一番近位、かなめの部分ということになります。
鎖骨は割と骨折しやすい骨です。鎖骨に直接何かがぶつかって骨折するよりも、肩をついて転倒した時にその衝撃が鎖骨に伝わって骨折することのほうが多いです。(介達外力と言います)脱臼の場合も同じで、ラグビーなどで転倒した時に鎖骨の外側、肩鎖関節で脱臼が発生することが多いです。鎖骨が骨折なり脱臼なりした時の症状として、腕が挙げられなくなります。鎖骨が上肢の動きのかなめである証左と言えるでしょう。
胸鎖関節と肩の症状
それで、胸鎖関節は上肢運動に伴って常に動いているからなのか、内方にズレやすいです。胸鎖関節がズレると、上肢に何らかの症状が出ることになります。
例えば五十肩。肩周辺の筋肉を緩めてから胸鎖関節を調整すると「すっ」と肩が挙がるようになります。(筋肉が変性していると時間がかかることもありますけれど)肩こりでも胸鎖関節の調整が効果的なケースが多いです。肘でも手首でも患部だけを調整してもなかなか軽快してくれないケースでは胸鎖関節のズレを調整する必要があります。
胸鎖関節と治らない突き指
ずいぶん以前の症例なのですけれど、高校生が騎馬戦をやっていて転落した時に手をつきました。それで親指を傷めてうちの整骨院に来院しました。親指の捻挫は同様の機転で骨折することもあり、骨折の変形を残すと障害が残りやすいので神経を使う部位です。幸い骨折もないようでしたので、突き指の処置をしてテーピングで固定して帰しました。せいぜいが数日で治るはずのケガのはずでした。
ところがなかなか痛みが引きません。骨折も疑ってみたのですがそんな症状も見当たりません。それでふと思いついて、胸鎖関節を調べてみるとちゃんとズレがあったのです。ここを調整するとあっという間に親指の痛みはなくなりました。手をついて転倒した時の衝撃が胸鎖関節に波及していたのでしょう。
似たような症状の患者さんは続くもので、また「親指が痛くて動かせない」という患者さんが見えました。今度は中年の男性です。この方は騎馬戦ではなく、ゴルフのスイングの際に地面をたたいて、それから親指の痛みが引かないといいます。いつのことか尋ねてみると、数年前から、とのこと。病院にももちろん行ってレントゲンも撮ってもらったけれど異常なし。親指を調整しようと思ったのですが痛がって触らせてくれません。以前の高校生と同じパターンではないか、と思いつきました。胸鎖関節を調整しながら上肢全体の緊張をとっていくと、だんだん指を動かした時の痛みが減っていきました。伸縮性のテープで筋肉の補助をしながら調整していくと、ちゃんと親指の機能は元に戻りました。ゴルフで地面をたたいた時のインパクトが胸鎖関節に響いたのでしょう。
以前読んだ症例には、全身にひどいニキビがある子供さんの胸鎖関節を調整したらニキビが治ったというのがありました。どんな機序なのかわかりませんが、鎖骨にはまだまだいろんな秘密がありそうです。