へバーデン結節は「関節が変形しているから治らない」のだけれど、
最近はご高齢の方の膝の痛みを拝見する機会は減りましたが、以前は高齢者の愁訴の半分くらいが膝の痛みでした。たいていの方が「病院では膝関節が変形しているから仕方がない、と言われた」とおっしゃっていました。それでも膝はずっと痛むわけではなくて、例えば歩きはじめだけ痛いとか、痛くて正座ができないとか、何らかの痛む動作があって、それ以外の時は別に痛まないことが多かったと思います。
もし本当に膝の変形が痛みの原因であるのならどんな動作をしていても痛くなければおかしい、ということになります。膝はずっと変形したままなのですから。
ちょうど私が開業したころは(平成の初めころ)、伸縮性のテープを貼付するのが流行っていました。筋肉と同じ伸縮率のテープを、筋肉の走行に合わせて貼ると痛みが取れてしまうのです。大相撲の力士が肌色のテープをあっちこっちに貼って取り組みをしているのをご覧になったことはありませんか。基本的にはあれと同じものです。
私が初めに開業したのは下町で、まだ自宅にお風呂のない方がたくさんおられました。うちの整骨院の患者さんがテーピングをしているのを銭湯で見かけられた方が「私もテーピングをしてほしい」と来院されたりしたものです。
伸縮性のテープを貼付するテーピング法は、キネシオ(ロジー)テーピングと呼ばれます。従来テーピングは患部を固定して動かなくするためのものでしたが、こちらは関節の動きをテーピングで補助することで可動域を広げて症状を改善するという、画期的なものでした。もちろんのこと、膝の変形は全く変化しません。膝の痛みが「治った」のは変形性関節症が改善したからではなくて、「動き」が良くなったからです。
変形性関節症はあっちこっちの関節に発生しますが、指の第1関節(DIP関節)の変形性関節症をへバーデン結節と呼びます。昭和の終わりごろ、専門学校に通っていた頃にはへバーデン結節は欧米で多発するけれど日本ではそんなに多くない、と習った記憶があります。欧米では文章を書くのにタイプライターを使用していましたから指を酷使する秘書に多いという説明でした。あんまり一般的には知られていなかったのか、時々「これリウマチと違う?」というご相談を受けることがありました。へバーデン結節はさきにも書きましたように変形性関節症ですから、リウマチとは関係ありません。
指の先端部ですから目立ちます。それを気にして「治りませんか」と聞かれることがあるのですが、私にはへバーデン結節の変形を治す技術はありません。ただ、いちど「痛みがひどいのを何とかしてほしい」というご依頼を受けたことがあります。どうしたものかと思ったのですが、DIP関節に動きをつけてみることにしました。指の先端の骨(末節骨)と二番目の骨(中節骨)との間の関節の遊びを調べて、制限のある動きを見つけて調整してみました。するとうまく痛みが取れてくれたのです。もちろん変形はそのままです。
指や膝に限らず、関節は非常に精妙な構造になっています。変形があれば可動域は減少して痛みが出ることは避けられないことのように思われます。でも、関節にわずかに動きをつけることで可動域はある程度回復し、痛みは減少します。身体には精密機械と違って、とんでもない許容性があるのだと思います。