整体の技術にはどんなものがあるか

骨格の歪みをとればすべてオーケー

腰が痛いとか肩が凝るとか頭痛がする、というときに「整体がよく効くよ」と勧められることがあるかもしれません。ところが勧めてくれた人がイメージする「整体」と、あなたの職場近くの施術所で行われている「整体」が同じものである可能性は限りなく低いです。整体という治療技術の定義はよく言えば幅広く、悪く言えばあいまいでいい加減ということです。

整体というと思い浮かべるのは骨をボキボキ鳴らす手技でしょうか。こういう手技は「直接法」とか「HVLA(高速度低振幅)」と呼ばれています。洋の東西、治療法の系統を問わず行われていて、かつては整体の主流を占めていました。私が三十数年前に柔道整復師の免許を取得して臨床を始めたときに使っていた手技も直接法でした。

背骨がボキボキ音を立てて鳴る、という非日常感があること、骨が鳴ると一種の爽快感があることなどから直接法を好む患者さんはかなりおられました。(怖がる方も当然おられましたが)それから見た目が派手だったのでパフォーマンスの要素もあったのでしょう、テレビ番組に整体師と称する人が出演して芸人さんの頸や腰をボキボキ鳴らし、芸人さんも大げさにリアクションするという構図をよく見たものです。

ただ、当然この手技は熟練を要します。ヘタクソに肩を揉まれると気分が悪いですが、直接法はやり損なうと命にかかわります。通っていたヨガ教室で「肩こりの治療」と称して頸をボキボキやられ動けなくなった患者さんを診たことがあります。整形外科などでの受診例では事故はもっと頻発していたでしょうし、もっと深刻な状況も起きていたことは想像に難くありません。そういうこともあってか、平成三年に当時の厚生省は頸椎への直接法(通達ではスラスト法)を、厚生大臣(現、厚生労働大臣)免許を持たないセラピストが行うことを禁じています。

それだけではなく直接法には治療法としての弊害もあります。整体で改善する凝りとか痛みは筋肉の緊張によって脊椎や骨盤の関節の動きが減少することによって起こります。直接法は動きの減少した関節に急激な力を瞬発的に加えます。それに反応して関節周りの筋肉が緩み、関節の動きが良くなるのですがそれと同時に関節周辺の靭帯も引き伸ばされます。直接法を繰り返し受けていると靭帯が伸びてしまい関節が不安定になります。不安定になった関節を安定させるために周囲の筋肉は緊張します。すると凝りや痛みが再び発生してしまいます。直接法を繰り返すことは関節の安定性を損ない凝りや痛みを再生産する要因にもなってしまうということです。カイロプラクティックの団体幹部だった某先生はこの現象を「カイロ病」と名付けておられました。

そんなわけで最近では直接法を使うセラピストも施術所も減少してきてはいます。ただ最近よく目にする「骨盤矯正」というのは直接法が多いようでずいぶん痛い施術を我慢して受けておられる、という話を聞いたことがあります。

直接法があれば当然間接法も存在します。間接法は骨の歪みに直接アプローチするのではなく、骨を歪ませている筋肉の緊張を緩和することで脊椎や骨盤に動きをつけていきます。背骨が右に歪んでいたら左に引っ張るのが直接法、現在の位置よりさらに右に寄せて行って筋肉が緩むまで時間をかけて待つのが間接法、といえばお判りいただけるでしょうか。

間接法は刺激が柔らかいので、直接法のような危険性はありません。骨が鳴る音を怖がる患者さんにも安心して施術を受けていただくことができます。ただ、施術をするセラピストの側から言うと器用不器用だけでなく手の鋭敏な感覚が必要になりますから術者によって技量の差が出てしまいます。内緒の話をすると直接法は多少的外れでも骨が鳴る音さえすれば患者さんは満足してくれるところがあります。標的となる骨を直接法で的確に動かす技術と、無理なく骨をボキボキ鳴らす技術とは実は似て非なるものがあります。直接法と間接法の違いをプロレスのイメージでいうとルチャ・リブレとUWFみたいな感じでしょうか。

骨がボキボキ鳴るときの爽快感を関西人は特に好むようです。開業して十年足らずでメインの手技を直接法から間接法に変更したのですが、初めのうちはなかなか納得していただけずに難儀しました。ただし間接法が気持ちよくないか、というとそうではありません。頭蓋骨を直接法で行うと強い力で頭を圧迫しますから結構痛いです。間接法の頭蓋骨調整はたいていの方が眠ってしまうくらい心地よい調整法です。

90年代にSOTという間接法を行うカイロプラクティックの流派が「ソフトカイロプラクティック」という名称を使い始めてから「ソフトな矯正」をうたい文句にしている整体院が増えてきました。「ソフト」という文言を使っていれば間接法を行う施術所と考えてもいいのかもしれません。ただし、ソフト整体を看板に挙げていても実際にはリラクゼーション、ただの無資格マッサージだったということもなくはないようです。

整体、と一口に言ってもベースになる治療法(カイロプラクティック、オステオパシー、中国整体など)も違えば術者の技量も違います。せっかく期待していったのに効果がなかった、とか乱暴な施術でえらい目にあった、とかいうことのありませんように。あらかじめどんなことをするのかを問い合わせて見られるのが一番無難なのかもしれません。

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