新型コロナウイルスと不登校のメカニズム

正直に告白しますと、不登校とかそれに類する症状のケアが苦手でした。例えば学習の問題なら心身の緊張を緩めていけば程度の差こそあれ改善していきます。ところが不登校については、思うような反応がなかなか得られませんでした。緊張を緩めることで心身を解放していけばさまざまな症状が改善していく、というのが手技療法の大原則で、患者さんにもそう説明して成果を上げていただけに悩みました。

そうしているうちにコロナ禍がやってきました。そこで不思議な現象が起きてきました。コロナに罹患したりワクチンを接種したりした後、学校に行けなくなってしまったという話を耳にするようになったのです。

それから、成人でもコロナ罹患後に会社に行けなくなった、という方が出てきました。不登校の原因として思いつくことは学校でのトラブルとか深夜までゲームをやっていて起床できなくなったとかです。コロナと不登校はどう考えても関係なさそうです。なんじゃそれは。

あれこれ考えていると非常に幸運なことに、コロナ罹患後に出社できなくなった患者さんを拝見できることになりました。定期的に頭蓋仙骨療法の施術に伺っている広島市のクリニックにそういう患者さんがおいでになって、院長先生が「頭蓋仙骨療法が適応じゃろう」とお考えになったのです。

拝見する前に考えたのが、これって背側迷走神経優位と違うかなということでした。ふつう、敵に襲われるとかそういう危機にあうと人間をはじめとする生き物一般は戦闘モードになります。心拍数や血圧は上昇して筋肉は緊張します。そうやって、「戦うか、逃げるか」に備えます。この時自律神経のうち交感神経が優位になります。自律神経には交感神経と副交感神経があって、戦闘モードの際に優位になるのが交感神経。リラックスモードの際に優位になるのは副交感神経とされています。

ところが到底かなわない敵に遭遇した時、生き物は「死んだふり」をして難を逃れようとします。人間も例外ではなくて、絶体絶命のピンチに遭遇した時にはすべての行動をシャットダウンして「死んだふり」に移行します。具体的には心拍数や呼吸数は下がり下痢や嘔気などが起きます。感情が乏しくなり表情が無くなります。カラダにも力が入らなくなります。

…、これって不登校のイメージとそっくりじゃないですか?そうしてこの「死んだふり」をする際優位になるのが背側迷走神経系です。そうして背側迷走神経系は副交感神経に分類されます。従来私たちが副交感神経としてイメージしていた、リラックスモードの際に優位になる腹側迷走神経系とあわせて、副交感神経には2系統あることが最近になって提唱されるようになったのです。ポリヴェーガル理論と呼ばれます。

新型コロナは文字通り未知のウイルスでしたから、罹患したりワクチンを接種されたりしたときにカラダがこれを「到底かなわない敵」と認識したことは想像に難くありません。ひょっとしたら恐怖をあおるだけあおった報道にも起因しているのかもしれません。そこで背側迷走神経系が優位になって心身をシャットダウンさせます。そうなってしまえば出勤もそれから登校も到底無理な話でしょう。

そんなわけでコロナ罹患後に出社できなくなった、つまり不登校と同じ症状が出現した患者さんはおそらく背側迷走神経系が優位になることが原因ではないかと私は考えました。背側迷走神経系は副交感神経ですから、従来の緊張を緩める(副交感神経優位にする)タイプの治療が奏功しなかったのは当たり前の話です。実際に拝見してみると果たして頭蓋骨の動きが副交感神経優位に傾いていました。それで私はこの患者さんの頭蓋骨を交感神経優位になるように調整してみました。するとどうでしょう、次に広島に伺った時にはこの患者さんは「普通に出社しとる」状態になられていました。

コロナ「以外」が原因の不登校(もちろんこちらのほうが圧倒的に多いでしょうけれど)についてもおそらくは自律神経が背側迷走神経優位になっていることが原因で間違いないと思っています。要するに心身が「竦んだ」状態であるということです。これについては稿を改めたいと思います。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です