学校で何かイヤなことがあって以来、登校できないケース

自律神経という言葉はよく耳にします。大まかに分類すると活動時に優位になるのが交感神経、活動を抑制する働きがあるのが副交感神経とされます。一般的には「日中、仕事や学業でアクティブに活動しているときは交感神経が優位に働き、帰宅して家族団らん、リラックスしているときは副交感神経が優位に働いている」と考えられています。

ところでえげつない叱責を受けたときや理不尽な扱いを受けたとき、心身がすくんでしまうことがありますよね。そういう時も自律神経が働いています。普通、敵から攻撃されたときには交感神経が優位になり「逃げる」か「戦う」かを選択します。ところが逃げることも戦うこともできないような状態では、人間(に限らず生き物一般)は、あらゆる行動をシャットダウンして「凍りついた」状態になります。言ってみれば「死んだふり」をして身を守る手段です。この時働くのが背側迷走神経系です。凍りついて動けないのは「活動の抑制」ですから背側迷走神経系は副交感神経に含まれます。

学校で何かシビアなトラブルがあったとき、この背側迷走神経系が優位になります。すると、下痢や嘔気を訴えるようになり、表情が無くなり、体に力が入らなくなります。そういう状況では登校は難しくなります。きっかけとなった出来事が「トラウマ」となって脳内に残り、学校に行けなくなったきっかけの辛い記憶を再生産します。そうして不登校は長期化していきます。

突然、学校に行けなくなるわけ

具体的なきっかけがなくても不登校になることはあります。新学年、新学期など環境が変わることは多少なりストレスにはなります。大半の子供さんは徐々に慣れていきますが、まじめであったり繊細であったりする子供さんは環境の変化をより大きなストレスと感じがちです。そうしてそのストレスに対して交感神経が優位になって心身のバランスを取ろうとします。日を追うごとに積みあがるストレスと交感神経がぎりぎりのところで釣り合った状態で子供さんは学校生活を送ります。そうして長期休暇がやってきます。

交感神経はここで働きを中止します。すると積みあがったストレスだけが残ります。制御できない膨大なストレスを脳は「逃げることも戦うこともできない敵」と認識します。そうして背側迷走神経系がすべての行動をシャットダウンします。「気が緩んだとたんにどっと疲れた」とはよく言われることですが繊細な子供さんにもそれが当てはまります。ずっと緊張して(=交感神経優位で)学校生活のストレスと釣り合っていたバランスがここにきて崩壊します。

休み中は一日ごろごろ怠けていて、と親御さんは心配されます。でも子供さんは怠けているわけではなく、ただ勉強しようにも体がだるくてしんどくて、どうしようもない状態なのです。これは意欲とか、ましてや躾の問題ではなく、自律神経の正常な働きです。とはいうものの、休みが明けても子供さんは相変わらずごろごろしていて、起床時間もどんどん遅くなっています。無理に学校に行こうとしてもお腹が痛いというし、どうしたらいいのかわからなくなってしまいます。

五月病というのはゴールデンウイーク明けから登校できない状態を言います。夏休み明けにも、それまで真面目に登校していた子が、突然学校に来られなくなってしまいます。親御さんも学校の教員も心配しますが、一番つらいのは子供さん本人です。

朝起きられるようにするにはどうするか

本人は「だるい」「疲れた」と疲労感を訴えますし朝起床ができませんが、休ませることは解決にはなりません。子供さんは自律神経の働きで行動をシャットダウンしているので、疲労(=エネルギーが枯渇している状態)ではありません。疲労と疲労感は別のものです。朝起きられないのも疲労が残っているからではなく、活動のためのスイッチが切れているからです。

実は不登校だけではなく、最近問題になっている慢性疲労症候群や、新型コロナウイルスのいわゆる後遺症も同じ「背側迷走神経系」が優位になって起きている症状のようです。現にコロナ罹患後やワクチン接種後に不登校になった、という奇怪な事案のご相談を連続して受けたことがあります。

いずれの症状でも原因は背側迷走神経系(副交感神経)が過剰に優位になっていることですから、休養させたりリラックスさせたりすることに意味はありません。不登校は交感神経を賦活して自律神経のバランスを立て直すことで改善します。

ご自宅でできるセルフケアとしては、両手の人差し指の腹を左右のこめかみに当てます。決して力を入れたりどちらかに引っ張ろうとしてはいけません。ただ指の腹をこめかみに当てておくだけです。そうして3分間指の腹を当てておきます。これを一日三回、朝昼晩行います。当院でも施術後のセルフケアとして行って頂いていますが評判はいいです。