人は本当に肩こりを「治す」ことを望んでいるか

僧帽筋

ジャンルを問わず手技療法を受けるクライアントの愁訴のナンバーワンは間違いなく「肩こり」です。リラクゼーションサロンは肩こりを訴える人でにぎわっていますし、スーパー銭湯に行けば超音波風呂とか打たせ湯とか肩こりの効能のありそうな設備がありますし、マッサージチェアにも誰かしらが座っています。マッサージチェアといえば家電量販店でも大人気です。それだけではなくて家庭用のマッサージ機器にもいろんなものが出ています。最近はマッサージガンというタイプのものが人気で、少なくとも見た目はプロが使うものと遜色ないものが、へたすると五千円くらいで売られていたりします。それだけ肩凝りに悩む人が多い、とも言えますが逆に言えばそれだけいろんな対処法が存在するのに一向に肩こりを訴える人が減らないのはどうしてでしょうか。

肩こりというのは基本的には僧帽筋やその周辺の筋肉の緊張を指します。治療法としては頸椎や鎖骨を調整するのが一般的です。肩甲骨の動きが悪くなっていることもありますから必要に応じてそちらの調整もします。筋肉を揉み解す、という行為は治療としてはよろしくないことが多いです。揉み解すことによって筋肉中の毛細血管がすりつぶされて出血を起こし、再び凝りを感じるようになるからです。「揉み解してもらった後は楽になるんだけれど、すぐに元に戻ってしまう」という話はよく耳にされるのではないかと思います。

それでなくてもいわゆる揉み解しは必要以上に強い力で行われることが多いです。強刺激を要求されるままに力任せの施術を行うということです。肩こりに限らず手技療法は、愁訴に応じて必要にして十分な刺激を加えることに人体が反応して緊張が緩和されていき、結果として症状が緩和されていくものです。ところが肩凝りに限った話、緊張した筋肉という「モノ」を物理的に柔らかくすることを目的とするような施術が横行しています。もちろんリラクゼーションサロンで施術を行うセラピストの資質に問題があることが一因ではあります。リラクゼーションは医療行為であるマッサージとは異なり資格要件がありません。医学的知識を全く持たない素人が数日の「研修」を受けただけで現場に出てしまうのが日本のリラクゼーションの現状です。そういうセラピストがカチカチに肩が凝ったクライアントを前にして、「もっと強く揉んでくれ」と言われたならばそれに応じようとするのはむしろ当然のことなのかもしれません。

それなら揉まれる側はどうして強刺激を要求するのか。それよりそもそも「治らない」ことを承知で人はどうしてリラクゼーションサロンに行ったり様々な肩こり解消グッズを購入したりするのでしょうか。おそらくそれは「緊張した筋肉が緩んでいくプロセスが心地いい」からなのだと思います。肩こりに限らず、筋肉が緊張するのは交感神経優位、つまり人がストレスに対して戦闘モードで臨んでいる状態です。ストレスが消退して戦闘モードが解除され、副交感神経が優位になるとき人は、(たぶん生き物一般は)深いリラックスを感じます。そうしてそれは非常に心地いいものです。まさに獅子が「楽しく傷をなめている(高村光太郎 傷をなめる獅子)」状態なわけです。それだけ現代人は戦闘モードのまま過ごす時間が長いのでしょうね。実際リラクゼーションサロンのヘタクソな手技を受けながら大半のクライアントは爆睡していたりしますでしょう?肩こりを揉み解してもらうという行為は症状の改善を目的とする施術と微妙に異なります。言ってみればレジャーとか娯楽に分類されるものだと思います。

リラックスすることが商品であるのなら、当然購入者は貪欲にリラクゼーションを求めます。身を投げ出してお任せでリラックスを提供するサービスが喜ばれる、ということです。例えば量販店の店頭で販売員さんにマッサージガンで背中をほぐしてもらって「これはいいわ」と購入しても家では使わずにほったらかしになる理由がこれです。マッサージガンを購入しても、背中をほぐしてくれる販売員さんはついてきません。そうして自分でガンを使って背中をほぐしても、「お任せ」にはならないですよね。逆にリラクゼーションサロンやマッサージ治療院で、施術前にセラピストが「ずいぶん凝っていますね」と言うのは「今からアンタの緊張をとってリラックスさせてあげるから任せときな」というアファーメーションであるわけです。

肩こりを力任せに揉み解してもらうのを娯楽として楽しまれるのは自由です(あんまりお勧めする気にはなりませんが)。ただ、不快感で仕事の効率が悪くなった、とか頭痛までするようになった、とかいうところまでこじれた肩凝りでしたら、頭蓋仙骨療法というオステオパシーの技術で緊張モードを解除すれば改善します。もちろんうちの整骨院では揉み解しは行いません。マッサージガン(業務用の高級なやつ)はありますが、当てるのはせいぜい数秒から数分間です。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です